※
彼女の作品はなかなか読むことができない。(中略) ティンバリー自身については、英米のホラーやファンタジーの事典を見ても、その名前がほとんど掲載されておらず、ロンドン大学を卒業して、六0年まで学校教師とジャーナリストをやりながら、余技に小説を書いていたぐらいのことしかわからない。
その作品をインターネットで探すと三十作ほどの長編があるが、(中略) すべて未訳であり、(中略) 長編にはインターネットの古書でかなり高い価格がついている。それだけ世界に彼女のマニアが多いのだろう。
(訳者 解説より)
※
最近、ちょっと頸と腰の調子が悪く、なかなか小説を読めないでいる。そんな訳で 再録ばっかりしてるけど、
今回は、俺が小説を読めないとか以前に、訳者によれば なかなか読むことも叶わないらしい貴重な、この方の このストーリーをご紹介しようと思う。
『新・幻想と怪奇』('09/早川書房) より、ローズマリー・ティンバリー著、仁賀克雄 訳『マーサの夕食』。
このポケット・ブック判アンソロジーの目玉が、"ティンバリー"さんの作品なんだそうだ。
※
金曜日の夜、いつものように、愛人のエステルを訪れた。妻には毎週異なる言いわけを伝えるのだが、野暮な勘ぐりをされることはまずない。そう、マーサは理想的な妻だった。彼女は家を清潔に保ち、趣味よく飾っている。必要とあらば、夫の仕事仲間をもてなしもした。夫とは一切口論したことがない。ひたすら帰宅を待っている。彼のどんなやり方にもなじんでいた。贅沢は好まなかったし、ベッドでは従順だった。他の男性に目をくれることもない。不機嫌さを見せたこともなかった。いつももの静かで、夫の話にはよい聞き手だった。それに、何よりすばらしいのは、驚くべき料理上手だったことだ。
※
ま、こんな風だとなんとなく結末はわかるような出だしだが、ぞぞーっと、人間の本能、動物さの伝わる物語だったわ。
※
「まあ、あなた」彼女はいった。「お得意先との約束はキャンセルになったの?」
「うん、延期の連絡が午後にあった」
「あら、そうだったの。でも、一日のお仕事のあとにはくつろげる夜のほうがいいわよね。じゃあ、これから夕食を作るわ」
「手数をかけてすまないな」彼はいった。「今夜はうちで食べると、知らせるべきだったよ」
「いいわよ。冷蔵庫にはいつもいっぱい材料があるから。レヴァーやベイコンはどうかしら────それにすごく美味しいキドニーもあるわ」
※
なんとなく匂ってきた?
毎週末の約束の日、愛人を訪ねると不在。旦那は仕方なしに家に戻り、マーサに仕事がキャンセルになったと偽り、妻は自慢の手料理を振るう。
…のだけれど…表面上は…
※
「わたし」彼女はいった。「今夜は特に幸せよ」
※
こ、怖い…(゚д゚lll)
※
(中略) 娘は長い金髪と銀のチェーン・アンクレット以外何も身につけていなかった。
娘はまるでエステルみたいだが、(中略) しかしそれを見ると、今夜の期待にそむいたエステルを思い出した。苛立たしさと、屈辱の心痛を感じた。こんなことで金曜の夜を過ごすなんて、まったく冗談じゃない!
けれども、マーサが夕食の料理をもってくると、彼はすっかり上機嫌になった……レヴァー、ベイコン、すべて完璧に料理されていた。空腹だったので、たくさんたいらげた。
「本当においしかった!」汁気たっぷりの最後の肉片を口いっぱいに頬ばりながらいった。「まさに最高の料理だ」
「ええ、特別料理よ」彼女は微笑んだ。
※
ぎゃーっ!こういう従順そうな大人しそうな方の方が、男女ともキレたら怖い、つーからね。
そうね、感情を出さない奴の方が、女にマメ、てのはよく知ってるわ。昔で言うなら「むっつりスケベ」ってやつ。ま、マジかなりのドスケベだったな、間違いなく。
まさかこの人が!てのを利用すんだよ、数少ない出会いを逃さない為に…
で、この物語の結末はどうなるか?
8頁しかない短編だから、本編全体を読まれた方が楽しみが増す。これ以上はネタバレしちゃうし…
て、ことでなかなか読むことの出来ない、"ローズマリー・ティンバリー"の作品、ご紹介いたしました。
※ 引用。
※※ ちなみにキドニーとは、腎臓のこと。
彼女の作品はなかなか読むことができない。(中略) ティンバリー自身については、英米のホラーやファンタジーの事典を見ても、その名前がほとんど掲載されておらず、ロンドン大学を卒業して、六0年まで学校教師とジャーナリストをやりながら、余技に小説を書いていたぐらいのことしかわからない。
その作品をインターネットで探すと三十作ほどの長編があるが、(中略) すべて未訳であり、(中略) 長編にはインターネットの古書でかなり高い価格がついている。それだけ世界に彼女のマニアが多いのだろう。
(訳者 解説より)
※
最近、ちょっと頸と腰の調子が悪く、なかなか小説を読めないでいる。そんな訳で 再録ばっかりしてるけど、
今回は、俺が小説を読めないとか以前に、訳者によれば なかなか読むことも叶わないらしい貴重な、この方の このストーリーをご紹介しようと思う。
『新・幻想と怪奇』('09/早川書房) より、ローズマリー・ティンバリー著、仁賀克雄 訳『マーサの夕食』。
このポケット・ブック判アンソロジーの目玉が、"ティンバリー"さんの作品なんだそうだ。
※
金曜日の夜、いつものように、愛人のエステルを訪れた。妻には毎週異なる言いわけを伝えるのだが、野暮な勘ぐりをされることはまずない。そう、マーサは理想的な妻だった。彼女は家を清潔に保ち、趣味よく飾っている。必要とあらば、夫の仕事仲間をもてなしもした。夫とは一切口論したことがない。ひたすら帰宅を待っている。彼のどんなやり方にもなじんでいた。贅沢は好まなかったし、ベッドでは従順だった。他の男性に目をくれることもない。不機嫌さを見せたこともなかった。いつももの静かで、夫の話にはよい聞き手だった。それに、何よりすばらしいのは、驚くべき料理上手だったことだ。
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ま、こんな風だとなんとなく結末はわかるような出だしだが、ぞぞーっと、人間の本能、動物さの伝わる物語だったわ。
※
「まあ、あなた」彼女はいった。「お得意先との約束はキャンセルになったの?」
「うん、延期の連絡が午後にあった」
「あら、そうだったの。でも、一日のお仕事のあとにはくつろげる夜のほうがいいわよね。じゃあ、これから夕食を作るわ」
「手数をかけてすまないな」彼はいった。「今夜はうちで食べると、知らせるべきだったよ」
「いいわよ。冷蔵庫にはいつもいっぱい材料があるから。レヴァーやベイコンはどうかしら────それにすごく美味しいキドニーもあるわ」
※
なんとなく匂ってきた?
毎週末の約束の日、愛人を訪ねると不在。旦那は仕方なしに家に戻り、マーサに仕事がキャンセルになったと偽り、妻は自慢の手料理を振るう。
…のだけれど…表面上は…
※
「わたし」彼女はいった。「今夜は特に幸せよ」
※
こ、怖い…(゚д゚lll)
※
(中略) 娘は長い金髪と銀のチェーン・アンクレット以外何も身につけていなかった。
娘はまるでエステルみたいだが、(中略) しかしそれを見ると、今夜の期待にそむいたエステルを思い出した。苛立たしさと、屈辱の心痛を感じた。こんなことで金曜の夜を過ごすなんて、まったく冗談じゃない!
けれども、マーサが夕食の料理をもってくると、彼はすっかり上機嫌になった……レヴァー、ベイコン、すべて完璧に料理されていた。空腹だったので、たくさんたいらげた。
「本当においしかった!」汁気たっぷりの最後の肉片を口いっぱいに頬ばりながらいった。「まさに最高の料理だ」
「ええ、特別料理よ」彼女は微笑んだ。
※
ぎゃーっ!こういう従順そうな大人しそうな方の方が、男女ともキレたら怖い、つーからね。
そうね、感情を出さない奴の方が、女にマメ、てのはよく知ってるわ。昔で言うなら「むっつりスケベ」ってやつ。ま、マジかなりのドスケベだったな、間違いなく。
まさかこの人が!てのを利用すんだよ、数少ない出会いを逃さない為に…
で、この物語の結末はどうなるか?
8頁しかない短編だから、本編全体を読まれた方が楽しみが増す。これ以上はネタバレしちゃうし…
て、ことでなかなか読むことの出来ない、"ローズマリー・ティンバリー"の作品、ご紹介いたしました。
※ 引用。
※※ ちなみにキドニーとは、腎臓のこと。
コメント
コメント一覧 (1)
(; ̄ェ ̄)
俺みたいな人間は長生きできないよな、親父も爺さんもそうだったらしいし…
社会のシステムが既にそうなってるからね、
でもな、自分らしく顔上げて生きてきたし、人生を悔やんだりもしてないから、
その辺の、何かにしがみついた生き方よりは清々しいけどね、
イヤなもんに頭下げるよか、痛みと戦う自分のがなんぼか自分らしいわ。
高野十座