スピルバーグの傑作【激突!】('71/米) の原作だね、
リチャード・マシスンの『決闘』('71/文春文庫・死のドライブ収録/'01、野村芳夫 訳)。
人の業のおぞましさが、画面全体を覆い尽くしている、スピルバーグのTV用ムービーの原作がマシスンのこの短編小説。
こんな風に始まる。
※
午前十一時三十二分、マンはトラックを追い越した。
※
身に覚えありあり、俺は。
なんでもない日常、厄災は背後から、自分の知ることなくヒタヒタと忍び寄って来くる。
※
……あちこちノブをひねって、静かで刺激の少ない音楽を流している局をみつけた。曲にあわせて鼻歌をうたい、前方にぼんやりした視線を向けていた。
風圧で車をわずかに揺らし、さきほどのトラックが轟音をあげて左側を追い抜いたとき、マンはびくっとした。牽引するトレーラーもろともトラックが西行き車線へと強引に割り込んでくると眉をしかめ、安全な車間距離をとるためにやむなくブレーキをかけた。どういうつもりだ?と彼は思った。
※
わかるわかる、車上じゃなくても、人生に急に こんな風に現れるやつ。あなたも一度くらいつきまとわれた、絡まれた経験とかない?
※
マンは衝動に駆られ、また加速して東行きの車線に出た。驚いたことに、トラック運転手は車線を変更しなかった。それどころか、運転手は、左腕を突きだして、先に行けと合図した。マンはアクセルを踏みこんだ。突然、ぎゃっとうめき、ペダルをゆるめて急ハンドルをきり、トラックの後部をかすめて引っこんだので、車は尻を振りはじめた。蛇行する車を必死で立て直しているとき、反対車線を青いコンヴァーティブルが通過した。そのドライバーがマンをにらみつけたのがちらりと見えた。
車は、また安定を取り戻した。マンは肩で息をしていた。心臓は痛いほどどきどきしている。ちくしょう!やつは対向車と正面衝突させようとしたんだ!
※
罠にかけ、貶(おとし)める。近ければ近い程、嫉妬、憎悪が顕著なのはよくあること。
だが、突然現れた程度の人間には、そして自分の人生に突然現れた人間にも、自分達が思い描くのは理想だけ、それだけが自分達の居場所だから。
わが道を遮る、阻む者はどんな手を使っても許さない、ということか…
※
……どけ、くそ野郎!と心の中で叫んだ。顎の筋肉が痛くなるほど歯をくいしばった。胃がきりきりした。
「ちきしょう!」怒りに身震いして、素早くもとの車線にもどった。「なんて卑劣な野郎なんだ」
※
この手の奴等に正義とか愛情とか期待する?
その心の中に在るのは自分の事だけ、それしか無い真っ黒い心なんだと思う。
いや…心が無い。俺の経験からすると。
だから"卑劣な真似"がどんなものだか、一切 理解などしていない。
※
……おまえは知らなかった。全然知らなかった。ある種の価値観は不変だと思いこんで長年生きてきた。命をねらわれることなどなしに、公道を走れるというように。おまえはその種のことを当てにするようになった。ところがなにかが起きれば、すべてが白紙にもどってしまう。ひとつの衝撃的な事件が引き金になって、長年の論理と習慣はおいやられ、突然目の前にジャングルが現れる。人間とは、なかばけだもの、なかば天使。どこで出くわしたセリフだったか?彼は身震いした。
あのトラックに乗っていたやつは、まるごとけだものだった。
※
俺も、とことんお人好しで何も知らなかったよ。
!(◎_◎;)
そして奴は、自分の為なら、どんな姑息な手を使ってでも思いを遂げるべく、標的に向かい突っ込んでくる。
※
大型車が自分めがけて突っ込んでくるのを、麻痺したように見守り、死ぬのがわかって現実感を失い、愚かにもトラックが迫っているのに逃げようともしなかった。巨人な雄姿が轟音とともに接近し、空までおおいつくした。{中略)
急にトラックが傾きはじめた。マンが息を殺して見つめるなか、トラックはまるで大きくて重い動物がよろけるように、スローモーションでひっくり返りはじめた。マンの車に達するまえに、相手はリアウィンドウからも消えた。
※
と、いった感じの短編だから、結末が気になる方は本編をお読みください。
映画もかなりの傑作で、マシスンの文章をそれ以上に的確に、スピルバーグは演出してるから、絶対ハズレ無し!是非ヒマをみつけてご覧あれ。
俺は古本屋で100円で買った、Amazonでもそんなにはしない。DVDは千円くらいで買える。
…俺の知る大型トラック?
それは、嫉妬と妬みだけでその身体を支えきれない程の巨大な図体をしている。
憎悪という真黒な土煙をあげ、大地を覆い尽くす 醜悪なその姿は、このマチスンのトラックそのものを描写しているかのようだ。
トラックはずっと、何かを 進むべき道のせいにして、言い訳だけをガソリンにして生きて来たから、自分の意にそぐわないハイウェイは全て 言い訳でしかないのだ。
だから、このトラックは永遠に、旅の終わりへとは辿り着かない。
ずっと、自分だけが正義の、同じ道を、ぐるぐると周り続け、最後は噴煙を撒き散らし 路肩に横たわる。
そして そのトラックは、俺の見る、すべての世界から、跡形もなく消え失せた。
※ 引用。
リチャード・マシスンの『決闘』('71/文春文庫・死のドライブ収録/'01、野村芳夫 訳)。
人の業のおぞましさが、画面全体を覆い尽くしている、スピルバーグのTV用ムービーの原作がマシスンのこの短編小説。
こんな風に始まる。
※
午前十一時三十二分、マンはトラックを追い越した。
※
身に覚えありあり、俺は。
なんでもない日常、厄災は背後から、自分の知ることなくヒタヒタと忍び寄って来くる。
※
……あちこちノブをひねって、静かで刺激の少ない音楽を流している局をみつけた。曲にあわせて鼻歌をうたい、前方にぼんやりした視線を向けていた。
風圧で車をわずかに揺らし、さきほどのトラックが轟音をあげて左側を追い抜いたとき、マンはびくっとした。牽引するトレーラーもろともトラックが西行き車線へと強引に割り込んでくると眉をしかめ、安全な車間距離をとるためにやむなくブレーキをかけた。どういうつもりだ?と彼は思った。
※
わかるわかる、車上じゃなくても、人生に急に こんな風に現れるやつ。あなたも一度くらいつきまとわれた、絡まれた経験とかない?
※
マンは衝動に駆られ、また加速して東行きの車線に出た。驚いたことに、トラック運転手は車線を変更しなかった。それどころか、運転手は、左腕を突きだして、先に行けと合図した。マンはアクセルを踏みこんだ。突然、ぎゃっとうめき、ペダルをゆるめて急ハンドルをきり、トラックの後部をかすめて引っこんだので、車は尻を振りはじめた。蛇行する車を必死で立て直しているとき、反対車線を青いコンヴァーティブルが通過した。そのドライバーがマンをにらみつけたのがちらりと見えた。
車は、また安定を取り戻した。マンは肩で息をしていた。心臓は痛いほどどきどきしている。ちくしょう!やつは対向車と正面衝突させようとしたんだ!
※
罠にかけ、貶(おとし)める。近ければ近い程、嫉妬、憎悪が顕著なのはよくあること。
だが、突然現れた程度の人間には、そして自分の人生に突然現れた人間にも、自分達が思い描くのは理想だけ、それだけが自分達の居場所だから。
わが道を遮る、阻む者はどんな手を使っても許さない、ということか…
※
……どけ、くそ野郎!と心の中で叫んだ。顎の筋肉が痛くなるほど歯をくいしばった。胃がきりきりした。
「ちきしょう!」怒りに身震いして、素早くもとの車線にもどった。「なんて卑劣な野郎なんだ」
※
この手の奴等に正義とか愛情とか期待する?
その心の中に在るのは自分の事だけ、それしか無い真っ黒い心なんだと思う。
いや…心が無い。俺の経験からすると。
だから"卑劣な真似"がどんなものだか、一切 理解などしていない。
※
……おまえは知らなかった。全然知らなかった。ある種の価値観は不変だと思いこんで長年生きてきた。命をねらわれることなどなしに、公道を走れるというように。おまえはその種のことを当てにするようになった。ところがなにかが起きれば、すべてが白紙にもどってしまう。ひとつの衝撃的な事件が引き金になって、長年の論理と習慣はおいやられ、突然目の前にジャングルが現れる。人間とは、なかばけだもの、なかば天使。どこで出くわしたセリフだったか?彼は身震いした。
あのトラックに乗っていたやつは、まるごとけだものだった。
※
俺も、とことんお人好しで何も知らなかったよ。
!(◎_◎;)
そして奴は、自分の為なら、どんな姑息な手を使ってでも思いを遂げるべく、標的に向かい突っ込んでくる。
※
大型車が自分めがけて突っ込んでくるのを、麻痺したように見守り、死ぬのがわかって現実感を失い、愚かにもトラックが迫っているのに逃げようともしなかった。巨人な雄姿が轟音とともに接近し、空までおおいつくした。{中略)
急にトラックが傾きはじめた。マンが息を殺して見つめるなか、トラックはまるで大きくて重い動物がよろけるように、スローモーションでひっくり返りはじめた。マンの車に達するまえに、相手はリアウィンドウからも消えた。
※
と、いった感じの短編だから、結末が気になる方は本編をお読みください。
映画もかなりの傑作で、マシスンの文章をそれ以上に的確に、スピルバーグは演出してるから、絶対ハズレ無し!是非ヒマをみつけてご覧あれ。
俺は古本屋で100円で買った、Amazonでもそんなにはしない。DVDは千円くらいで買える。
…俺の知る大型トラック?
それは、嫉妬と妬みだけでその身体を支えきれない程の巨大な図体をしている。
憎悪という真黒な土煙をあげ、大地を覆い尽くす 醜悪なその姿は、このマチスンのトラックそのものを描写しているかのようだ。
トラックはずっと、何かを 進むべき道のせいにして、言い訳だけをガソリンにして生きて来たから、自分の意にそぐわないハイウェイは全て 言い訳でしかないのだ。
だから、このトラックは永遠に、旅の終わりへとは辿り着かない。
ずっと、自分だけが正義の、同じ道を、ぐるぐると周り続け、最後は噴煙を撒き散らし 路肩に横たわる。
そして そのトラックは、俺の見る、すべての世界から、跡形もなく消え失せた。
※ 引用。
コメント
コメント一覧 (1)
( ̄^ ̄)ゞ
病院だし…(ーー;)
短髪にして、このライオン頭をなんとかしちゃる!!!
_φ(・_・
がんばろ…
(^。^)
高野十座