昔は雨の日が好きだったなぁ…

雨がぶつかる音を聞きながら、いろんな事に想いを馳せたもの。

明日のことや、好きな人のこと、秘密基地のこと…

二段ベッドの上で、毛布を頭からスッポリ被って、甲虫の図鑑を開いたり 眺めたり…

トタン屋根につぶつぶ 水の当たる音、自動車が水溜まりを飛沫ながら、跳ね上げながら進む音…

部屋の窓を潜水艦の窓に見立て、無限の深海へと雨の中 突き進んだりした…

乗組員は一人、艦長は自分。

いつも独りだったなぁ…


今はもうそんな思いもなくなって、雨になると憂鬱。

早く止んで、お願い、とかなる。痛いから。

あーダメ。大人になるというのは、潜水艦にはもう乗れなくなるということだ。

一人乗りの潜水艦はとっくに失くなった。

独りの乗組員が陸(おか) に上がって、いろんな痛みを我慢するだけ。

身体だったり、心だったり。

甲虫図鑑も開かなくなって、

毛布被って 歌も歌わなくなって…

耐えるばっかり。

雨の日のワクワクは、もう何処かへ消えて、

イヤな奴らが出て来ない様 願いながら夢を見る。

大好きなキミと、ぶんた君にだけ 逢えれば好いのに と願いながら、夢を見る。

雨のつぶつぶを数え、

街の鳴る音も数えて、一万くらいまで数えたら、あれ?何処まで数えた?とか思いながら、

また大体からやり直したり、数え直したりを繰り返しながら…

…いつの間にか夢になる。

雨のやまない日には…