長いあいだ、ピーターは自分の才能が正しく評価されないことに怒りと焦りを募らせてきた。
(俺にほんの少しの幸運があれば、今日にでもブロードウェイの劇場を満員にすることなどたやすいのだが…)
これまで彼は、批評家を呪い、自分の芸術を解さない大衆を軽蔑しつづけながらも、大劇場の正面に自分の名前がネオンとなって輝く光景を夢見てきた。


今年、DVDが再発なったのでね【アクエリアス HDリマスター版】('86/伊、ハピネット、死体瞬き修正ver.)、この伊の映画は一体どんなふうな日本語の文章に?

あらすじはこんな風…


ミュージカルの公演を目前に控えた稽古中、
アリシア(B・クビスティ)は足を捻挫したため、衣装係のベティに連れられ近くの病院に向かった。
ところが、その病院に、一時的に収監されていた猟奇殺人鬼ウォレス(小説ではウォーレス) が脱走。アリシアたちの車に忍び込み、芝居小屋に侵入する。

ウォレスは鍵をかけ電話線を切って劇場を外部と遮断した後、閉じこめた演出家のピーター(D・ブランドン) をはじめとする劇団員を次々に殺しはじめた。
『スプラッター・カーニバル』(太洋図書)より引用。


伊モノの小説とか、映画も、日本語吹替ってあんまし見ないもんね、

【サンゲリア】('79/伊)の吹替だって、DVDに収録されるまで随分長いこと、後生大事に持ってたもんなあ…

そんな、伊モノ映画のノベライゼーション、
【アクエリアス】('87/ルー・クーパー著、上之二郎 訳/集英社文庫) をLog.る。


役者じゃ食えないが、紳士用トイレで客を取るときにはマドンナも真っ青なほどセクシーに腰を振るオカマ野郎や、キューバン・レストランじゃ看板娘で通っているLATINO版マリリン・モンローやら、演出家である自分が指をパチンと鳴らすだけで、役者は犬のように飛んでくる。
(中略)
男子用トイレのマドンナというのは、梟役のブレッドのことだった。この役者ときたら、年がら年じゅう、口を開いては愚にもつかぬジョークを飛ばしてひとり悦に入っている。


犬!のように飛んでくる。確かに、犬は、あっちにもこっちにも、いつでも尻尾を振ってるかもしれない。


殺人鬼に首を締められ気絶した女が、正気を取り戻したその時に、首を締められたときのストンと落ちていった恍惚を思い出して男に媚を売る。
(中略)
なによりも、ウェストのくびれが淫乱に男の欲情を刺激する。そして、スラリと伸びた形のいい足。それでいて、太腿は肉感的なラインを描いて、セックスしている最中を一目で想像させるのだ。


エロとグロと。イタリアぽいです。
f^_^;)


「エロティック?これが、エロティックだって?いったい、あんたは今までどこをウロついてきたんだ。その目はなにを見てきたんだ?これがエロティックだというなら、世界中の路地という路地に精液が洪水となって溢れだすだろうよ!」


どんな例えやねん。
(~_~;)


ショービジネスの世界にいながら、ベティには少しも派手なところがない。それに人を蹴落としてでも這い上がろうという餓鬼たちをあまりにも多く見すぎたせいで、人間不信に陥ってもいた。

それでも、誰かが彼女に救いを求めてくれば、邪険にできない性格に変わりはない。

アリシアに好感を抱いているというのも、彼女には、ショービジネスのアクに染まってない品の良さが感じられるからだった。少なくとも、演出家のピーターのように自分のサクセスのためには悪魔の手でも平然と借りてしまうというような下劣さを感じないですんだ。


下劣な連中が、自分に付ける値段はお高い。


「ツルハシの切っ先から柄とのジョイント部分まで、杭を打ったように打ち込まれています。被害者が倒れた様子からして、犯人はツルハシを真上から降りかざし、一撃で被害者の口に命中させたと考えられます」
ぐるりから、声にならない悲鳴があがった。


ぐるりから?周囲から?のこんな言い方もある?

病院から殺人犯が 車を使って抜け出す、てのは【ハロウィン】('78/米) のマイケル・マイヤース、と、
また、元居た場所(この場合は舞台) に戻り、殺戮を繰り返す、てのは【血のバレンタイン】('81/加) の坑夫ワーデンと同じ。最初の凶器がツルハシ、てとこも。


六人の死体をすっかりステージに上げると、ウォーレスは上手・下手の両方から、手当り次第に椅子をステージ中央に運び、つぎつぎに六人の惨殺死体を椅子に坐らせていく。コリーンは床に転がったまま放置された。


あんまり印象無いんだよね、好きな人は大好きな映画なんだけど…

この、惨殺死体をお客に、パーティーさながらに全員をテーブルに着かせる、てのは『誕生日はもう来ない』('81/加) の、ラストをも彷彿させる。


アリシアに、ウォーレスの表情を窺い知る術はなかった。梟の仮面を脱ぐ気配はまるでない。
ウォーレスは元のアーム・チェアに腰を下ろし、無言で自作のオブジェを鑑賞した。マネキン人形の胴体の上で、ピーターの顔が虚空を見つめる奇怪なオブジェ。
ピーターが見つめた虚空に、突然、おびただしい本数の羽毛が舞い上がる。ステージの脇で扇風機が回ったのだ。ルシファーが床に置かれた扇風機の電源スイッチを踏んだのだった。
回りつづける扇風機の風で、床に転がっていた羽毛枕から一斉に羽毛が舞い上がり、ステージの上を雪のように飛び交って行く。枕は、コリーンの出番に使われた小道具だった。それは、ズタズタに引き裂かれていた。


この映画の屈指の名シーン。文章にするとこんな感じになるんだね…以外と淡白。

映画の監督のミケーレ・ソアヴィという方は、ゾンビもの撮っても こう芸術的、幻想的、つーか…

突っ込みどこの多い、どこか憎めない、惹きつけられる…一ヶ所必ず 忘れないシーンがある、そんな風に人気のある監督さん、だよね…

『アクエリアス』の中で、羽毛が、まるで牡丹雪の様に、舞台全体を覆うように舞い上がるシーンは、何しろ美しい。

大体、梟(フクロウ) のマスク付けてるから、その羽が舞ってんのかと思ってたわ。

ただ 猫が扇風機のスイッチ踏んだだけだったんだ…
(T_T)

雨宮監督の 人造人間ハカイダー('95)も、最後、人造人間ミカエルとボコりあうシーンに羽毛が舞って(たぶん) 、ソアヴィ監督のこのシークエンスとよく似てたと思うんだけど、どう?

それにしても、他は全然忘れちゃったけど、一度観たら ここだけは絶対憶えてる、そんな不思議な魅力に溢れた映画。


夢だったのだろうか───。

わめき散らすウィリーの声をと遠い風のように聞きながら、アリシアは白い光の中に出た。まぶしさに包まれて、ふと、手の中の金時計を見ると、時は、もうはるか前に止まっていて、秒針から、血が流れていた。



この小説は、今現在、Amazon1円です。
( ^ ^ )/□

興味のわいた方はお試しを。
m(_ _)m

24eeb424.jpg

954c76a5.jpg




※ 引用。