ある時俺は、緑深い山中で巨大な…何やら人の住んでいそうな小屋らしき建造物を発見した。
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巨大な建造物を小屋と表現するのは正解かどうか判らないが、湾曲した…サラダボウルの様なそれは山の中腹に半ば埋れるかのように鎮座しており、
ボウル内部に設えられた木製?椰子を何十にも深く編み込んだかのように、だが堅く塗り固められた合板のような素材を重ね合わせ組まれた小屋をみても、それは明らかに人為的な建造物に見えた。

建物の壁をコンコンと数度 叩き何処か侵入口がないか捜していたその時!!
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キュインキュインと何やら金属的な音に包まれ空から光輝く皿が!!ゆっくりと下降して来たではないか!!
金属の皿は下底部より光沢を持つ透明な光を放ち…まるでエレベーターの様なその光塊の中には黒い影…
「サラダボウルを探っていたら空から金属の皿…か。腹が減っているんだな俺は…」こんな時でも妙に冷静にそんなことを考える。
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グゲゲェグゲゲェ…と不気味な鳴き声?いや、ノドの膨らみ、突起?を鳴らしながら異形のモノが光に包まれ降りて来る。

それはカンガルーのようにピョンピョンとギクシャクと前に進む。体表は滑り、口からは黒緑色した二股に別れた長い舌をアリクイのごとくにゅるにゅると出し入れしている。
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暫く観察していると頬にパシパシ何やら当るので、掌で払い払い目を凝らし異形の怪物の様子を凝視する。
そうしていることで周りに飛び交う頬に当るその何か、もはっきりと確認できた。

半透明の妙なもの…棒にヒラヒラのナイロンを纏ったような数センチサイズの何かが数十〜いや数百ほど俺の周りを取り囲んでいる。
まるで 目の前をピョンピョン跳ねる異形の生き物を護衛しているかのように飛び回る…
実際にその何かが俺の身体に当たる度、異形のモノは顔を上げ、緑に赤の目玉をギョロリと動かし反応し、此方へとピクピク首を震わせ近付いてくる。
「この飛び交う半透明の生物はもしかしたらあの怪物に目標物の居場所を知らせる役目のレーダーなのか?ここに居たら見つかる!」
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と、その時、建造物の中から黄金に輝く飛行機が一機飛び出して来た。
異形のモノは光り輝く黄金飛行機へと気を取られる。チャンスとばかり俺は飛行機と金属皿から距離を取る…

少し離れた岩の窪みに自分の身体を投げ入れ息を殺す。
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ドサリと下半身を窪みに落とし左手で身体を起こし様子を伺う。
冷んやり滑っとした何かが左掌に触る。「ウワッ」とその手を引き上げ窪みの暗がりを覗き込む。
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その窪みは、つがいの蛇?トカゲの手脚を捥いだような蛇ご家族の新婚マイホームだったみたいだ。
案の定、内一匹がシャーーーーっと威嚇してくる。こんな時は大抵メスがその役割なので「奥さん申し訳ないです、突然お邪魔しちゃって」とリーマンみたいな口をききながらそこからやんわりとあたふた這い出す、
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這々の体で暗がりを匍匐前進していると今度は何やら前方に立ち塞がる…脚!!に触れる。人だ!助かった!!とその脚に縋り「助けてください…」と声をかければ「大丈夫かい?」と返事、
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暗がりで顔はよく見えないがくるりと背を向け「おいらについてきな」とその男…
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何やら背中に固い素材のバックパックを背負っている。暫く一緒に移動しているうちにその男が妙に生臭いことに気付く。

「おいらはあの箱舟の住人さ」と浮かぶ金属の皿と対峙する 浮遊する黄金の飛行機を背に生臭い男は振り返らずゆっくり進みながら話し掛けてくる。

「アンタさっき、何度かノックしたろ?合言葉いわねえと開かねぇーからおいらが見にきたって塩梅」と、江戸前寿司の職人かなんかだな?この人、と生臭さにも納得しつつ後を追う。
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すると、「そして我々は奴等と戦っている…」と野太い堂々としたバリトン(Bariton)の声がずっしりと後方からのしかかる…

ビクッとする俺。
「よぉ!」と生臭い男。
「こいつは何だ?」と野太い(Bariton)声の男。

暗がりでよく見えないがシルエットでは、大きいロットで巻いたのか?もしくは天パーのきつい髪型の人物だ。

「そこで拾った。人間だよたぶん」と生臭い男。「見られたか?」と野太い声の男。
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すると今度は「見られたら消えることになる」と生臭い男の行く手からドスの効いた声。
「無いです無いです、見て無いです」と俺。
月明かりに照らされたその声の主はどうやらファーコートを纏っているらしい…って?こんな山中で?寒がりか?

あ!マタギかなんかだ、たぶん。もう何が何だかテンパっちゃって、なんか人それぞれ事情があるよ、と自分を納得させ 3つの影の後を追う。
もうこうなると、顔を上げず目を伏せ脚下以外絶対に見ないでこいつらについて行くしかない。
3人に囲まれ 暫く道無き道を歩くとどうやらあの建造物の入り口らしき場所に辿りつく。
この入り口は あの金属皿と黄金飛行機が睨み合う空の裏側に位置するようだ。

コンコンとノックし生臭い男「山」と発言。まさか?と思う俺を尻目に天パーバリトンの男が「川」と発言。思わずプッと吹きそうになる。(普通中から「川」だろう?) と笑いを堪えているとギギーッと戸が内側に引かれ…
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内部の灯りで逆光だが、中からオバチャンらしき姿の人物が戸を開ける。「おかえり」。
「見られたの?」とオバチャン。「いや、見られてないよな?」と生臭い男が俺に尋ねる。つーかこいつら全員風呂嫌いだろ!って臭いがする。
目を閉じ下を向いたままの俺「み、見てないです何も」と かぶり(頭)をぶるんぶるん振る。
するとファーを着た男が「こいつは見てないと言っている。ならば何を見ても見られてはいないのだろう…」と、インディアンの言葉 みたいな不思議な問答をするが意味不。
俺は「そうですそうです」と理由なく同意。

そして俺は招かれた。
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「アンタも箱舟の話くらい聞いたことはあるだろ?」とオバチャン。

その湾曲したサラダボウルの中には、3メートルは悠にあろうかという巨大な鳥…ダチョウのでっかいの?みたいなやつが卵を温めていたり、
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太古の巨大水棲獣の泳ぎ回る水槽まで設えてあって…

「ほら、こいつらもずっと水槽暮らしじゃ可哀想だろ?だからたまに湖に放してやるんだ」と生臭い男、つーか小屋室内の光源の下で、しっかりハッキリ…ソロ〜っとチラ見すれば 河童。
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「それぞれ生息できる湖が決まっていてな、散歩みたいなもんだ….」と天パーバリトンの男、つーかゴートマン。
「人間が地球を汚すからだ。我々は移住先を捜している」とファーコートを着た男、つーか全身脱げそうにない毛皮、イエティ(どこがマタギ?)。
「こうしてその時が来るまで種の保存に務めているのよ」とオバチャン、つーかフロッグマン。

「何処へ行くの?」と俺。

「わからない、皆が穏やかに共存共栄できる場所へ…」と誰からともなく…

「あの円盤は?」と俺、「あれは私達、私達自身…」「どういうこと?」
「あれは遠い昔、奴等が最初に移住した場所から、新たなる移住者を募りに来た…」

「つまり、人間を連れて行こうとしている。見られてないのだろう?」とイエティ。「ならば大丈夫だ」とゴートマン。(あ?消されるって、金属皿の奴等に見られたら連れてかれるってことか? ) ここで初めて俺は顔を上げた。

「何故人間を?」「人を移住先へと移しまたここ地球へ、故郷へと戻る為だ…」と、4人とはまた別の新しい声、

「奴等は、今はまだ少数の人間で、移住先に適合出来るか実験中だ。お前は牛と同じく狙われた 」
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「あなたは?」と俺。「私は君たちが呼ぶところの恐竜。何万年もの時間で、地球環境の変化によりこの姿へと変わった」

「移住者は戻ろうとしている。人間を移住先へと移し ……人が居ると この惑星が汚れるからだ」と恐竜人。

「あなた達は何故移住先へと行かなかった?」
「我々は奴等の環境には合わない」「では何故移住先を探す?此処(地球)に居ればよいではないか?」

「人間が地球を汚すからだ」とまた先程と同じ発言はイエティ。彼は人間にかなり怒っているようだ。「もうこの惑星に居るのは限界だ」
「パターソンという男が私をフィルムに撮影してからというもの、人間は私を山奥へと追いやったからな」まるで心の中を見透かしたようにイエティは独り言をつぶやく。
「ある人間などは、仲間を殺し 氷漬けにし世界中に見世物として旅して回った…」この毛むくじゃらの巨人の人間嫌いは本物のようだ。
「我々は絶対に人目に触れない場所へと避難した…」……そう…全ては この惑星のガンは人間なのだ。

「では、奴等の移住先に人間が適合できなかったら?」
「奴等は人類を消去し、戻るだろう」

「では、このまま人類がこの惑星に居座り続け、汚し続けたら?」恐る恐る俺は訊いた。
「我々が君たちを絶滅させる、と云いたいところだが、我々は このまま気付かないなら 君たちを見捨てて移住先へと移るだろう。人類は我々の同胞、同じ地球人だからな、殺したりはしない。そして…」と恐竜人、

「そして…?」

「このまま変わらないなら人類は この母なる大地から消去されるだろう…私のかつての仲間、恐竜達の様に…」

愕然と立ち尽くす俺、どの道人類は淘汰される種、運命なのか?母は子を消し去るのか?
ごくりと唾を飲み確信に迫る問い掛けをする。
「先程あなた方は、奴等を私達自身だといった。では、奴等とは恐竜人のことなのか?」

「違う…奴等とは……遠い昔の、旧い人類のことだ…」

俺はまた下を向いた。今度はショックと恥ずかしさで顔を上げられなかった。

すると、箱舟の住人達…俺の肩に手を置きこう言った。
「どうだい?悔い改めて、この地球上でまた一緒に仲良く暮らさないか?」


俺は泣いた。

泣きながら訊いた。


……「風呂はあるかい?」

箱舟の住人達は無言で…

……水槽を指差した。

「アンタなんか臭うぜぇ?俺なんかキレイ好きだからあそこに毎日小一時間は浸かってる」と河童。

今度は違う意味で また泣いた。




高野十座 著 (c)2013
※フィギュアは俺 私物。