一本のボールペン…それをくれた叔父はね、全く俺を受け入れなかった人、

俺も、その人も、その息子も死ぬほど合わないから別にどうでもよかったけど、

最後は憐れな末路だった叔父、血はつながってないけど、だけど俺はこのボールペンを今も手放さずにいる。

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いちばん左上の金色のデュポン。

こうして、形見として筆入れにいつも入れてある。

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ぐるぐる巻いちゃう革の筆入れ。

この叔父はさ、俺の知らない父親のエピソードを、俺に聞かせてくれた初めての人なんだよ。

結婚間もない頃、姉妹のそれぞれのパートナーを紹介するパーティーみたいな席で、俺の父親には初めて会ったんだって。

大学出のその叔父は、歌手だと聞いてる まだ17くらいの若い頃の俺の親父に、その席で、何かちょっとでいいから一節 歌って欲しい、とそう言ったんだそうな…

ずっと楽器を…トランペットをいじってたらしい親父は、その頼みを無碍に断った、と叔父は言ってたよ。

そん時のパーティーは盛り下がっただろうな?

俺は自分の父親の性格を知らんけど、つーか父親を全然知らんけど、

父親が「大学出だかなんだか知らないが、俺の歌はそんな安いもんじゃねぇ!」って気持ちだったのがよくわかる。

じゃあアンタは、頼まれたらパーティーの会場で…気圧の峰の移動、に関する論文でも発表すんのか?って話しだからな…

叔父は俺にこう言ったよ、

「あぁ…そんなカンタンに何処でも歌ってくれ、なんて言っていいもんじゃなかったなぁ…」と、

親父の歌い手、芸人としてのプライドを、当時をそう思い出してたよ。

そんな風に…俺がまだ生まれる前の父親の話しを叔父はしてくれたんだよね。

そん時俺は、初めて自分の生い立ちを誇りに思ったからね、

俺の父親は、そんなに腑抜けでも、腰巾着でもなかったんだな、って…

それ以来、叔父が何故俺を避けるのかよくわかったし…きっと、その時の父親は、かなり辛辣に叔父を冷たくあしらったんだろう…

で、その事を思い出すのと、その息子(俺) とダブるのとで…どうにもバツが悪かったと…

でもさ、最後までその叔父とは手は合わなかったけど、それ以来俺はその叔父が嫌いじゃなくなって、

ある日、このボールペンくれる、つーからいただいて、

今も大切に持ってる。

その叔父との唯一の交流と、唯一の形見の話し。
Σ( ̄。 ̄ノ)ノ