わりと仲良しで、尚一のことも知っているネット好きの同僚が教えてくれた話では、いろんな作家や編集者といった人達のHPの掲示板を荒らしまくっているらしい。匿名にしてあっても、丸わかりだという。
一度だけ好奇心を抑えられず、今最も尚一が執着しているという、作品よりも本人の奔放なキャラクターが人気の女性作家のHPを覗いてみた。掲示板には『いうなって感じ』というあいつの口癖だった言葉がたくさんちりばめられた、その作家でなくてもうんざりするような、程度の低い罵倒と中傷が延々と書かれてあった。


今回は、岩井志麻子 著『死後結婚(サーフキョロン)』('09/徳間文庫) をlog。

今、13SHOE・高野十座のブログの、検索ワード36位だからね、岩井志麻子さん。俺、もう大ファンだよ。
(^。^)


過去の書き込みを遡ってみたら、自分の書き込みがあった。それに対する、女作家の返信はなかった。京雨子の書き込みは、意図的に無視されていた。しかしそれ以降、尚一はぴたりと書き込みをやめたらしい。効果的すぎる書き込みだったのだ。
女作家は鷹揚なふりをしたいのか、逆に尚一を晒し者にしたいのか、尚一の書き込みはみな削除せずに残してあるので、すぐわかった。


主人公は 京雨子(きょうこ)。そして沙羅(さら)という女性。なんだか冒頭からおぞましさデロデロの長編小説。


…京雨子がどう答えていいかわからないでいると、沙羅はどこか朗らかに付け加えた。
「サーフキョロン。死後結婚よ。死んだ人と、結婚するの」

この人は、日本人ではなかった。京雨子は初めて、それを実感した。


どちらも、誰も、不幸のスパイラル、そんな禍々しい物語なのか?


…いつも不機嫌で自己愛ばかりが強くて、嫌な奴だった。悪いことはみんな他人と世の中のせいで、現実には負け犬の癖に選民意識が強くて、自分以外はみんなバカ、だった。
(中略)
当然、どこからも相手にはされず、最初からわかっていたが行き詰まった。世界はますます彼にとって、屑と塵だけのものとなった。
もともとそんな奴だったが、とめどなく悪口と愚痴とを垂れ流すだけの男と成り果てた。



…せめてもの自尊心の保ち方だったのだろう。捨てられたのではなく、捨てたのだということにしたかったのだろう。尚一の物語はいつも、自分の中だけで完結する。(中略)
自分は負け犬だと薄々どこかでは知っていても、俺は勝ち犬だと他者には誇示して立ち去ったのだ。
(中略)
ただ、心にかかる黒い雲は、尚一が人気の女性作家に執着し、HPを程度の低い罵倒と中傷で荒らしていたことだ。
どうやら京雨子への執着心を断ち切るか一旦は封印するか薄めるため、違う標的を探し出したのだ。己の不平不満を、ちょっと目立つ他人を神様の代理人に仕立てて駄々をこねる。そんな人は多い。本当は神様に駄々をこねたいのに。
(中略)
…他の人にはわからなかっただろうが、尚一が読めば「オマエの正体は知っているぞ」となる文章だった。(中略)
以来、尚一はそのHPから消えただけではなく、京雨子の前からもいっさいの消息を断ったのだ。

ときおり、薄く嫌な夢に現れるだけとなった。


これ、ホラーかな?エロティックなホラー?生きた人間がいちばん怖い、ってのを文章にしたら、こんな物語が出来上がる。んな感じ。

まだ冒頭なんだけど、なんかどっかで聞いたような話しで…

て、ことで、どこもかしこも引用すれば、 あまりにもリアルで、おどろおどろしいので、後は皆様 本編をご覧くださいませ。
m(_ _)m


岩井志麻子 さん って、本当すっげー!!
(; ̄ェ ̄)


「モウ、ニクガ、ナクナッタ」
工事中のビルの前を通り過ぎた刹那、あの声がした。
「ホネダケ」





※ 引用。