キングの【霧】('80)=ミスト(mist)、ではないフオッグ(fog)の方…より深い霧を指す。

だがこちらもまた名作と名高い、ジェームズ・ハーバート著、関口幸男 訳 の【霧】('76/サンケイノベルズ)。


英国環境省特務員ジョン・ホルマンは、秘密の使命を帯びてソールズベリ平原に出張していたが、その帰路立ち寄った村で大地震に遭遇した。地割れの中から救出された時、彼は地底から湧き上がってきた黄色い霧のために発狂していた。この霧はそのまま消え去ったかのようであったが、やがて周辺地域で恐るべき事件が次々と起こった。霧は、大気中の炭酸ガスを養分として無限にふえ続けていたのだ。殺戮の足跡を残しながら、霧は大都市ロンドンに向かっていた。奇跡的に回復したホルマンは、唯一の免疫者として、霧の正体をつきとめるべく、狂人の街へ入ってゆく。そこで彼が見たものは、人間が人間でなくなった修羅場であった……


と、まあ表紙カバーめくると折り返しにはこんな端書のあらすじ。突然発生した霧で、人類が発狂していく、そんな物語…

でもなんかね、怖いのは巻末の 訳者あとがき、


原子力平和利用の代表的な例である原子力発電所もしかりだ。自然の脅威の前にはひどく脆弱である。

発電所のある地下でマグニチュードの大きな直下型地震が発生したとしたら、どうだろう?

人類は、こうしたみずからのつくりだしたもろもろの文明の利器を維持していくために、人知をつくして安全対策を講じている。

しかし万全とはいかない。


これ、ちょっと怖い。関口幸男という訳者が、1976年に書いた文章…

この方ご存命ならブログとか覗いてみた方がいいかも。予言じゃん。
( ̄◇ ̄;)


そしていま、メイビスは裸足で波打ち際に立ち、夜明けの薄明かりの中で陰気な灰色の海を眺めていた。
もう泣いてはいなかった。感情が涸れたためではなく、抑えていたのだった。これから死のうというのに、泣いてもはじまらなかったからだ。


この小説の有名な場面。霧によって、大量の自殺が始まる描写。


メイビスは、靴を波打ち際に残して、海の中へ入っていった。
(中略)
彼女はさらに深く沈んでいった。
(中略)
海面は胸にまで達していた。メイビスは、寒さと胸の周囲を押し付けてくる海水の圧力とで、呼吸するのが困難なことに気づいた。
(中略)
死。死は絶対的だ。肉体が最後の闇に呑みこまれるまでに、苦しみがあるのだろうか?
(中略)
このままで済むはずはない!メイビスは待っていようと思った。ロニーは見捨てないでと哀願するだろう。メイビスは、彼女を許し、両腕にしっかりと抱いてやるだろう。ふたりの愛はいままでにもまして強いものとなるだろう。ふたりとも、自分たちが断ち切ることのできない絆で結ばれていることを知るだろうからだ。

周囲の黒い海がとても恐ろしかった!

メイビスは浜へ戻ろうと、死に物狂いで身体の向きを変えていった。
(中略)
彼女は、足元をすくわれないよう用心しいしい、ふらつきながら引き返していった。
(中略)
ひたひたと寄せる波が腰の高さまでの地点へやっときて、彼女はちょっと立ち止まって呼吸を整えた。もう大丈夫と安堵した。死の重荷が取り除かれたいま、心が妙に軽くなっていた。
いままでの苦闘に胸を波打たせながら、彼女はちらと浜を見やり、目を見張った。なんのことやら、訳がわからなかった。

何千人───いや、何万人かも────という人々が浜辺への段々を降りて、彼女のほうへ、海のほうへとやってくるのだった。
(中略)
声もたてず、水平線のほうをじっと見つめながらやってくる。彼らの顔は一様に蒼白で、催眠状態にあるようで、ほとんど人間の顔とも思えないほどだった。
中には幼い子供もまじっていた。親からはぐれたらしく、ひとりで歩いている子もいた。歩けない子は抱かれていた。ほとんどの人が寝間着姿で、素裸の人もいた。
(中略)
彼らはいまや、彼女目指して進んできた。何万人といることに気づいた。
(中略)
前列でひとりの老婆がつまずいて、砂の上に倒れた。だが、人々はかまわずその上を踏み越え、踏みしだいてやってくる。
(中略)
彼女はただ、その圧倒されるような大群衆の通り道から逃れることだけを考えた。
(中略)
彼らのほうへ駆けていくと、その人垣をかきわけて通り抜けようと、虚しい努力を払った。彼女が哀願するのを気にもとめずに、彼らは彼女を押し戻した。
(中略)
だが、あまりの多人数のために通り抜けられず、ずるずると待ち受ける海のほうへと押し戻されていった。

メイビスは倒れ、必死にもがいて立ち上がった。だが、そのために、すぐそばにいた、男の子を突き倒してしまった。すぐにまた身をかがめて、その子を助け起こした。男の子はただじっと前方を凝視しており、彼女を見てもいなかったし、自分が倒されたことにも気づいてすらいない様子だった。

彼女はまた突き倒された。今度は水の中へもぐってしまい、海水を呑みこみ、思わず男の子の手を放した。息苦しさと闘いながら海面に顔を出し、塩水で目が見えなくなり、彼女は恐慌をきたして悲鳴をあげ、手足をバタバタさせた。

なにが起こっているのだろう?わたしはすでに自殺していて、ここは自殺者ばかりの集まってくる地獄なのだろうか?彼女は膝立ちになった。そして、立ち上がろうとしたとき、こんどはいくつもの身体が彼女の上に倒れかかってきた。

メイビスは、水面下で人の手足にからまれて、盲滅法あばれまわった。叫ぼうとするたびに肺から空気が抜けだしていった。やがて、疲労に負けそうになっている自分に気がついた。
足掻く力が弱くなり、彼女はついに、闇の中にじっと横たわった。いくつもの身体が彼女につまずきつつ踏み越えていき、ある者は彼女の上に倒れ、軟弱な海底に彼女を押さえつけた。最後の空気の泡が彼女の唇から立ち昇ったとき、彼女の瞳は開いていた。
(中略)
絶対的な無。感情からの開放、そして寒気からの開放。

メイビスは死んだ。


あれー(; ̄ェ ̄)なんでー?

と、まあこんな感じの…予言でもなんでもないはずなんだけど…新しくも、記憶にも痛々しい SFパニック小説。

これが映画化なってたら、絶対にこの国じゃ封印だわ。今なら。

そんなレアな逸品。
(⌒-⌒; )

こんな時、個人の力なんて無力だし、思い直し、どんなに生きようとあがいても、運命には抗えず、魅入られたら絶対に逃げ場はないのかもしれない。

そこから、命から、目を逸らすな!と作者は云ってんだろか?

ファイナル・デスティネーションや。
(T ^ T)