それはモノクロの、手術のシーンから始まる。

「…こういう特殊な患者をゆっくり観察出来るのは医師として絶好のチャンスじゃないか…医学の為にも貴重だ」

いいのか?これ?こんな映画、今じゃ絶対放送出来ん….

でも、今こそこの時代に観るべき映画。

「脳は一部だけが無事に残っているが、その中には延髄もある。
そのおかげで大事な心臓も、循環中枢や呼吸中枢も働いている。つまり…
生きているんだ…」

第一次大戦下、
戦場で被弾したジョニーは、両手両足と顔面を吹き飛ばされ、目も耳も口もすべて失っていた。(DVD解説より)

"身元不明の負傷者 第407号…
合衆国陸軍軍医部、ヒラリー大佐よりの手術後の指示….
小脳の働きによって肉体が幾分運動を起こす事もあるが、そのような動きは何の意味もない。
もし身体の動きが激しくなり、しつこく反復される時は、反射的肉体痙攣としての処置を行うこと。
すなわち鎮静剤を与えればよい。
大脳は酷く傷つき全く回復の見込みはない。このような症状だからこそ、私はこの患者を生かしておく事にした。
他の多勢の負傷者を救う為の 研究資料としてだけ、この患者には生き延びる資格があるのだ。
看護はできる限り優しく、患者が痛みを感じないからといって、粗略(ぞんざい)には扱わないこと。
だからといって逆に患者に対し、必要以上の
同情心を持つ事も かえって正しい看護とはいえない。
大脳の働きが停止した患者は、普通の快楽も
、更に記憶や夢や思考能力もない事をわきまえる。
いたずらに感情に溺れず、割り切って看護にあたること。
すなわちこの若者は、屍同様、感じる事も考える事もなく、

最後の日までただ生き続けるだけである。"


ジョー(ジョニー(ジョー・ボナム) なので、吹き替え音声はジョー。ジョニーはニックネーム?)は
、志願兵として戦場に向かうその前の夜、
恋人のカリーンと最後の逢瀬を分かち合ってる。

…そこへ…
「やめろ!」とカリーンの父。

「ここは俺の家だ、そんな薄汚い真似をしやがって、二人とも立って、ちゃんとしろ!さあ立つんだよ!」

「明日の朝戦争へ行くの…」と懇願するように、天使のような娘のカリーン。

「わかってるわかってる。寝室でやんな。二人で行け…」
場をわきまえろ、と、ただそれだけ言いたい、空気の読める優しい父…

「…俺はな…25年も炭鉱で石炭堀りをしてきた。それがどうだ…
今じゃしがない鉄道の番犬さ…あぁ そんなこたあどーでもいい…
カリーンと一緒に行ってやんな、ビクついてるよ、ちゃんとしてやんな、ほら、女 知ってるのか?(はい)
おい、街の女とは訳が違うぞ?(はい)
………じゃ、ベッド行きな…(はい)」

若く、そして未来のある二人、の筈 だった

今は…
ジョニーは戦場に行き、この幸せな想い出の中、だけで生きてる。

このまま生き続ける事が正しいのかどうかもわからないまま、
己の存在を消す事も許されないまま、

カリーンを想い、ただ 物のように生かされ続ける…

"痛いっ!そんなにつまむなよ、いや…つまむというよりは、熱いものを突き刺した感じだ。
….まてよ…そうだ、昔有刺鉄線の柵(さく)にぶつかって前に切った時と同じだよ。
縫い合わせて治った跡を、糸を抜かれたじゃないか…でも…
ほんのちょっと感じが違う…
腕を何かされている事は解るが、腕の一番先がまるで感じない、
腕のいちばん先にいちばん近いところは手首の辺りだな…
手首は 何処かな…?
腕の先だと感じる場所が、少し高すぎるぞ?
ちょうど、肩のところだ!
(よし)
腕を、切り落としたな!
(傷口はまず塞がった…)
僕の腕っ!
(残りの糸も抜いて…)
酷いなっ!
(もう一度消毒するんだ)
どーしてこんな事をしたんだ、あの腕は必要なんだ、
仕事が出来ないじゃないかっ!

…枯れ木の枝を切り落とすみたいに、気楽に人間の腕は切り落としてもらいたくないな!

法律で決まってるだろ?こーいうことには患者の承諾が必要なんだ!
片腕になったらろくな仕事にもつけないじゃないか!
せいぜい雑貨品のセールスでもやるしかないよ!

…あぁ…
もう一本の腕も切っちまうのか?

やめろ!頼むからやめてくれ!一本切ったばかりじゃないかっ!
あんまりだよ、両方とも切るなんて、やめてくれ!これじゃ腕が◯×△だよ!酷いよっ!
◯×△□◇…やめてくれっ!

(…どうせ本人には解らんのだ…)


ひどいね、勝手に外側からそう決めつけて、本人、全部"生きたまま"はっきりと"、意識のあるまま"、理解してる…

この、高名な映画、
【ジョニーは戦場へ行った】('71/米) は、

ドルトン・トランボが39年に出版した小説を65歳になった彼自身が映画化した、唯一の監督作品。

本編を、DVD(角川書店)で、なんとしても観てほしい…。

ジョニーは、昼夜を数える事から始め、この状態で何年間も…

人としての…魂の尊厳を訴え続ける…

たくさんの幸せや、苦しみや…そんな想いを反芻しながら…

モールス信号で、
意思の疎通が図れる、伝えられることに気付いた一人の看護師が現れた事で、

ジョニーは思いの丈をやっと、やっと、吐き出す事になる。


「こんにちは、そこに居るみなさん、お互い話し合いましょう…」と穏やかにジョニー、

「…モールス信号です」(何て言っている?)

「S.…O….S…助けて…」

脳の損傷で 思考能力は無い、
と言い切った軍医ヒラリーは、無言のままその場を立ち去り…

「聞いてみろ。何が望みか?他に何をすればいいか?」
額に指を当て、モールス信号を送る…

そしてジョニーは応える…

「そうだ!好い事がある!
僕を陳列して金を取って、見物させればいいんだ。多勢の人に。
窓の付いた小綺麗な棺桶に僕を入れて、人が多勢集まる場所へ置けばいい…

夏の海岸とか田舎の祭りとか、協会のバザーなんかもいいんじゃないかな?

よく見世物に、頭の小さい女とか、犬の顔をした蛇人間なんてのがいたけど、あんなのとは訳が違う。
あれは生まれつきで神様が創ったんだが、この小綺麗な棺桶に入ってるバケモノは人間が作ったんだ!
この辺に居るのと同じ人間が作ったのさ!知恵を絞って、莫大な費用をかけてね、

頭を振って話せる、世界でたった一つの肉の塊だと宣伝すりゃあいい…

それでも客が来なかったら、その時は…軍隊こそ人間を作り上げると信じて入隊した最後の男、と広告したらどうだ?

旗をおっ立てて、呼び込みをすりゃ多勢集まってくるよ!
軍旗の元に志願兵が続々と集まって来るようにね!」

これが、戦争で、両手足も、顔の全ても失った、
肉塊と化した男の一縷の希み…

何もかも五体満足な自分が、簡単に諦めてどーする?って話だよ、

お前はジョニーと比べられるのか?

ジョニーを見たら、何だって出来る気はしないか?

そんな話だよ。


「僕は…外に…出たい…」

そんな些細な…儚い望みが、
そこに何も出来ないまま 横たわってるってこと…

まだまだ、負けてたまるか、だよね…

ネタバレになるので結末は本編をご覧いただくとして…

兎にも角にも、すんごい、すんごい、映画でした。
!(◎_◎;)








※ ジョニー台詞及び、全 台詞、
【ジョニーは戦場へ行った】(角川書店 DVD)
TV放映版・吹き替え音声より ママ 引用。