マーティンはメリーゴーラウンドのほうに頷いてみせた。
「あれは夏の風物詩ですね。メリーゴーラウンドの音楽、カリオペーの音色」

(カリオペ=蒸気オルガン)

これは【ミステリーゾーン】第一シーズン#5
『過去を求めて』('59) の翻訳 (歩いて行ける距離 / ロッド・サーリング著、矢野浩三郎 訳 / 文春文庫) の段落。


…彼は静かな声で言った。
「夏に子供であるということほど、素晴らしいことはありませんよ」


この物語は、
都会で成功した若きサラリーマンが、毎日に疲れ、何もかも投げ出して…歩いて行ける距離…なのに 20年も帰らなかった故郷へと突然 戻ってみる話…

昔と何ひとつ変わらないその街で、彼を待っていたものは…


玄関の階段へ行く途中、足に何か柔らかいものが当たった。野球のグラヴだった。
それを拾い上げ手にはめ、昔やったように、ポケットをぽんぽんとたたいた。そのとき、庭のまんなかに、自転車がスタンドを起こして立ててあるのが目に入った。
ハンドルのついているベルを鳴らしてみた。と、その手をだれかの手が抑えて、ベルの音を消した。目をあげるとロバート・スローンが立っていた。
「またもどってきたな」と、父は言った。
「もどってくるしかなかったんだよ、パパ、ここはぼくの家だから」彼は手にしたグラヴを上にあげてみせた。
「これもぼくのだよ。十一歳の誕生日にパパが買ってくれた」
父の目が細くなった。
「野球のボールもくれたよね」マーティンはつづけた。
「ルー・ゲーリックのサイン入りのやつさ」


古き良き時代に郷愁を覚えずにはいられないものだ…

この物語なら、メリーゴーラウンド、カリオペの音色…

俺、高野十座なら…

夏休みが終わったら亡くなってたクラスメイト、
愛し愛された恋人との日々…

ぶんた君。

変身サイボーグ、CITIZEN DIGI-ANA…

そして…一度しか会えなかった父親…


メリーゴーラウンドのガードポールに頭をもたせかけて、彼は目を閉じた。
「きみ(幼少期の自分) に言っておきたかっただけなんだよ」と、呟くように、

「今がきみにとって一番すばらしい時だということを、言っておきたかっただけなんだ。今のこの時を、一瞬でも、充分に楽しまなければいけない。いまにメリーゴーラウンドにも乗れなくなる。綿菓子も食べられなくなる
。バンドコンサートも聴けなくなる。ぼくはきみに伝えたかっただけだよ、マーティン、
今が一番すばらしい時なんだとね。今が!この場所が!それだけだ。それを言っておきたかった」


過去を振り返ってばかりではいけない事もよく知っているよ、

この物語のように昔が幸せなら、きっとあの日々を振り返る事もないのだろう…

何があった?あの時俺は何をした?

嫌な想い出ばかりだったから、もう一度やり直したい過去もある。

そーじゃなく、これを読む貴方なら、もう一度幸せなあの日に還りたい?

辛い過去から逃げ場の無い自分を、もう一度励ましたい?

どーなんだろ?


「ぼくは必死の駆け足で生きてきたんだ。本当は弱い人間なのに、まるで強い人間のようなふりをしてきた。びくびく怯えているくせに、ーーー強い男の役を演じてきた。それが突然、なにもかも嫌になってしまったんだよ
、パパ。ながい間走りつづけてきて、どうしようもなく疲れきってしまった。…」


すごく解るよ、心から…
何もかも疲れた、てのは本当よくわかる。

父は未来から来た息子にこう云う…


「たぶん、私たちに与えられたチャンスは一度きりだからだろうな。一人の人間にとって
、夏は一度きりしかないのだよ」

父の声には思いやりに満ちた深味があった。

「あの子……私の知っているあの子……いまこの世界にいるあの子。この夏はあの子のものだよ、マーティン。かつて一度、それがきみのものだったようにね」首をふった。

「そこに割りこむようなことをしてはいけない」
(中略)
「そうかもしれない。さようならパパ」

ロバートは数フィート行ってから立ちどまると、マーティンに背を向けたまま佇立していたが、
やがてもう一度こちらに向きなおって、

「さようなら ーーー息子」



…父親かあ…-_-b






※ 引用。